参宮橋からの景観 参宮橋ストアー跡地
 
代々木の空 代々木小公園前の踏切
今回の散歩マップ
 
町歩きエッセイ『極私的東京。』タイトルロゴ
掛線
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参宮橋商店街入口
 
第五回 失われたクレープ屋を求めて

参宮橋は、小学生の頃の遊び場だった。家で一緒にファミコンを楽しむ友だちと、駄菓子屋でお菓子を一緒に食べる友だちがいた。不思議とこの両方を一緒に楽しめる友だちはあまり多くなかった。駄菓子屋でつるむのは、きまってサッカークラブで一緒の連中。
渋谷区の中でも、西原と代々木は緑が多く、かなり閑静な住宅街だ。閑静過ぎて、人にあまりでくわさない。そんな住宅街を抜けると、参宮橋商店街の入口に着く。ここからは一気に庶民度が上がる。この辺りのバランス感覚が不思議である。中ほどまで行くと参宮橋ストアーがあって、入口正面に駄菓子屋があった。ここでの僕の密かな楽しみ、それはスピードくじだった。

くじをひいて、出た番号の商品を壁にかかってるボードからとる。僕の興味は、ある一枚のステッカーに注がれていた。52番の場所に飾られた『気まぐれオレンジロード』のステッカーである。左にあしらわれたタイトルロゴ、右のサークルに鮎川まどかの絵が描かれたそのステッカーがどうしても欲しくて、52番の数字をひくまで何度もやった。くるたびに、ボードにそのステッカーがまだ存在していることを確認するのが、まず最初にすること。そしたら、UFOチョコや「5円があるよ」(5円の形をしたチョコ。値段も5円)やチーズの味のうまい棒を食べながらくじに励む。他の奴がひく時は、何が当たるかジッと見守った。そいつがスライムみたいな汚い色のスーパーボールなんかひくと、僕はホッと胸をなで下ろしたりした。

ところで、このくじは、わざわざ店のオヤジに見せる必要はなかった。自己申告制である。つまり店のオヤジと僕らの間には一種の紳士協定があったのだ。だから店のオヤジもそのことについて何も言わなかった。
しかし、好事魔が多し。僕はひけどもひけども当たらないくじに苛立って、ある時ついにこの紳士協定を破る暴挙に出た。全然違う番号が出たのに、「あっ、52番」と言ってボードから『きまオレ』ステッカーを引き剥がしたのだ! ステッカーを手に入れた後、5分もしないうちに僕は駄菓子屋をあとにした。

その後も友だちと一緒によく駄菓子屋に出向いたが、いささか罪悪感があったせいか、一人で来ようとはしなくなった。と同時に、僕には新しい遊び場の開拓が必要になった。で、次の遊び場は、参宮橋ストアーから更に駅の方へ少し進んだところにあるクレープ屋へと変わった。サッカークラブの連中と出向くようになったそのクレープ屋でのお気に入りはハムやレタスを巻いたやつ。あんまりうまいんで、友だちの家で一緒に作ったりしたこともあった。そのクレープ屋に行きたくなって今回の散歩が始まったのだが、15年の月日は長かった。参宮橋ストアーもクレープ屋もなくなっていたのだ。参宮橋ストアーは「グランエクレール参宮橋」という建物に、クレープ屋にいたってはどこにあったかさえわからなくなった。

来た道を引き返して、代々木公園の方へと歩き出した。代々木八幡そばの踏切を渡れば目の前が代々木小公園である。小学3、4年の頃、自転車にまたがりながらこの踏切が開くのを待っていた僕は、バーが上がった瞬間、アゴにひっかかってあやうく宙釣りになりかけたことがあった。よく考えてみるとひどいエピソードだ。僕は小公園を横切って代々木公園に入り、夕暮れ時のうまい一服を吸いながら、あのクレープ屋の前に立ちこめた甘い匂いを一生懸命思い出していた。
くすりのセイジョー

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