第三十七回 壊す街、創る街(1)
3月の下旬、同潤会青山アパートが取り壊されるという話はすでに多くの人の耳に届いていた。代官山にあった同潤会アパートが壊されてから、もう随分と経つそうだが、代官山は今でもやはり代官山然としているなと思う。表参道から同潤会アパートがなくなっても表参道であることに変わりはないのだろうか。
移り変わりの早い東京の中で、当然のように佇んできたモノがなくなる。29年間東京で生きてきた僕にとって、それ
お品書き
第一回『浅草』篇
第二回『聖蹟桜ヶ丘』篇
第三回『和田堀公園』篇
第四回『権田原』篇
第五回『参宮橋』篇
第六回『桜上水』篇
第七回『大蔵』篇
第八回『門前仲町』篇
第九回『西原』篇
第十回『お台場』篇
第十一回『高尾山』篇
第十二回『分倍河原(前編)』篇
第十三回『分倍河原(後編)』篇
第十四回『渋谷区本町』篇
第十五回『初台』篇
第十六回『善福寺川緑地』篇
第十七回『九品仏』篇
第十八回『等々力渓谷』篇
第十九回『笹塚』篇
第二十回『幡ヶ谷』篇
第二十一回『代々木』篇
第二十二回『谷中』篇
第二十三回『巣鴨』篇
第二十四回『雑司ヶ谷』篇
第二十五回『明治神宮外苑』篇
第二十六回『光が丘公園』篇
第二十七回『立会川(品川区)』篇
第二十八回『高井戸・浜田山』篇
第二十九回『日野』篇
第三十回『日野橋(前編)』篇
第三十一回『日野橋(後編)』篇
第三十二回『夢の島マリーナ』篇
第三十三回『京王永山(前編)』篇
第三十四回『京王永山(後編)』篇
第三十五回『根津』篇
第三十六回『石神井公園』篇
第三十八回『京王多摩センター』篇
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は初めてかもしれない経験となる。このサイトを始めた時、「今は現在の写真しか撮れないから、昔の街は自分の記憶を頼りに文章で表現しよう。写真だけを使って昔と今を比べるのは30年後くらいになるだろうな」と思っていた。
しかし、意外にも表参道で早くもそれが実現すると判って、いいのか悪いのか、僕はワクワクしてしまった。歴史ある建造物がなくなり、新しいモノが生まれる時に同じ時間を共有することが、たまらなく嬉しく思えてきたのだ。
別に何の縁もゆかりもない場所ではある。「極私的東京」というテーマにどれだけ見合うのか疑わしい気持ちがないわけでもない。それでも、東京の今を切り取りたいという欲求を否定したくはなかった。30年後の財産になるかもしれないという予感。それだけのために。
というわけで、僕は3月に表参道でこれらの風景を切り取ってきた。「これ、いつ壊すんだろう」
カメラを向けながら思ってた。早く壊せということじゃなくて、まるでこのままなかったことになりそうな、これから壊される建物にはとても見えない、といった雰囲気がしたからだった。内心、自分も心のどこかで「それもアリ」と感じていた。しかしアパートである以上「老朽化」を避けて通ることはできない。
古い建造物であっても人がそこで生活を続けてきたヨーロッパのそれらとは、耐久力のようなものの違いを感じた。日本とヨーロッパとの間には、モノを残し続けることに、これほどの差があるなんて・・・。
それから三ヶ月、僕はいろいろな場所へ出かけ、そして少しの間入院などもしたが、同潤会青山アパートはすでに取り壊されていた。「あれ、いつ壊したんだろう」