「ズズ.....」
鼻が出てきてしまったサンタは腕時計の時間が気になって仕方ないのですが、下を向くと鼻が垂れてくるので、すぐに顔を上げないといけません。
遠くから見ると、まるで木に向かって何度もお辞儀をくり返しているように見えます。
ミシッミシッ、パキ。
まるで暖かい上着を脱ぐように、トナカイが木の中から抜け出てきました。
「やあ。遅かったじゃない。(ハックション)今年も寒いね。(ズズッ)そろそろ回ろうか。去年よりも30分も過ぎてる。風邪ひいちゃったじゃないか。」
「そこの喫茶店で待ってればよかったじゃない。」
「サンタがサンタの恰好して喫茶店でトナカイを待つわけにはいかないよ。子どもに示しがつかない」
この日、この時だけ、この並木道は、サンタとトナカイだけの滑走路になります。少しきしむ音が気になりだしたソリを駆けて、フワっと飛び上がると、いつの間にかサンタとトナカイは西の向こうの空へと消えてしまいました。
この話は、この街にだけ伝わる伝説なのでしょうか。
確かに、この並木道にトナカイの頭の形をした木が一本だけ存在するのです。
しかし、クリスマスイブの夜にその木からトナカイが抜け出てきたことや、鼻をすするサンタが待ちぼうけていたのを観た人は、まだ誰もいないのです。