九品仏の参道(上)
九品仏浄真寺の檀家
九品仏の参道にある紫陽花
九品仏の参道(下)
第十七回 参道の寄り道を訪ねて

大学一年の7月、前期試験が控えていたのをいいことに、僕は都内の寺の檀家を掃き掃除する短期バイトをやりだした。変わったバイトが好きだったのだ。

バスで渋谷へ出て、東急東横線に乗って自由が丘へ。そこで東急大井町線に乗り換えて九品仏へ。改札を出て左を向けば、浄真寺に向かって真直ぐ伸びた趣き深い参道が誇らし気に構えている。僕がそこへ派遣された時、すでに10人以上の仲間が一週間前から掃き続け
浄真寺にあるイチョウ
町歩きエッセイ『極私的東京。』タイトルロゴ
掛線
浄真寺




ていた。ここの檀家はとても広いのだ。僕は、自分が8年前に、どの場所でホウキを忙しく動かしていたのか、すぐに思い出すことができた。ここに大きなゴミ箱を置いて・・・、ここで手を洗って・・・、ここで叱られて・・・。いい想い出だ。

カメラを持って墓石の並ぶ方へ歩き出すのはもちろん僕しかいなかった。湿気で蒸した曇り空の下で、時折冷えた空気が首筋を走り抜けた。

やっぱり気になる。
想い出の中から引き出した一枚の絵を、必死に風景と重ね合わせながら、その「ズレ」を修正するように僕はこの寺の参道を歩いていたことを、今一度思い出した。参道の入口から向かって右側に、その名も「参道」という、いい味を出した甘味処があったのだ。僕はここへ行きたかった。確か、このあたり・・・

しかし、いくら探しても店は一件も見つからない。紫陽花にファインダーを向け続けていた僕の気持ちは、再び浄真寺の方へ向き直した。思いきって訊く。
「あの・・・確かこの参道に甘味処があったはずなんですが・・・」
「潰れた。2、3年前だったかなあ・・うん」
「・・・そうだったんですか」

住職とは、それ以上やり取りしなかった。8年も時が流れていたことを改めて実感した。帰りがけに「今度寄ろう」と思ったきり行けずに終わってしまった。しばらくして、小糠雨が降り始めた。

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九品仏の地図
九品仏の風景1
九品仏の風景2
浄真寺の参道にあった甘味処跡