極私的東京百景認定〇一二
幡ヶ谷 →
分倍河原
大人一枚 本日限り有効
お品書き
第一回『浅草』篇
第二回『聖蹟桜ヶ丘』篇
第三回『和田堀公園』篇
第四回『権田原』篇
第五回『参宮橋』篇
第六回『桜上水』篇
第七回『大蔵』篇
第八回『門前仲町』篇
第九回『西原』篇
第十回『お台場』篇
第十一回『高尾山』篇
第十三回『分倍河原(後編)』篇
第十四回『渋谷区本町』篇
第十五回『初台』篇
第十六回『善福寺川緑地』篇
第十七回『九品仏』篇
第十八回『等々力渓谷』篇
第十九回『笹塚』篇
第二十回『幡ヶ谷』篇
第二十一回『代々木』篇
第二十二回『谷中』篇
第二十三回『巣鴨』篇
第二十四回『雑司ヶ谷』篇
第二十五回『明治神宮外苑』篇
第二十六回『光が丘公園』篇
第二十七回『立会川(品川区)』篇
第二十八回『高井戸・浜田山』篇
第二十九回『日野』篇
第三十回『日野橋(前編)』篇
第三十一回『日野橋(後編)』篇
第三十二回『夢の島マリーナ』篇
第三十三回『京王永山(前編)』篇
第三十四回『京王永山(後編)』篇
第三十五回『根津』篇
第三十六回『石神井公園』篇
第三十七回『表参道(同潤会アパート)』篇
第三十八回『京王多摩センター』篇
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第十二回「ウォーターボーイズ」
彼と僕が出逢ったのは、市民プールの営業があと数日に迫った、大学一年の夏の終わりかけ。昨日の嵐の余韻をデッキブラシで丁寧にかき消していた朝のことだった。
平日はプールサイドでメガホンを首に下げながら目を泳がせ、休みの日にはサッカーボールとサンバを踊っていた僕の肌は、まるでブラジル人みたいに真っ黒で、一目で日焼けサロンのそれとは違う「本物の焼き」が入った躯だった。
仕事を始めて三日で人の死を目の当たりにした僕らの、ライフガードとしての現実は、夕方のシャワーのようにヒリヒリと肌に擦り込まれていた。その後、たとえ詰め所のテーブルの足にマムシが巻き付いていても、僕らはテーブルをプールの外へ運んで、ほぼ冷静に片付けることができた。
そんな僕らの前に、あんまりな姿で現れたのが彼だった。立つこともままならない、ひどく痩せこけたアメリカンショートヘア。名前はまだなかった。ほんの数日前にみた人懐っこい猫とはとても思えなかった。すがる力さえ手放してしまったような姿に僕は正直同情した。
4/28。彼の三回忌。僕はチョビと出逢った分倍河原の西府プールに来た。当時、夜中にアルバイトをしていた僕は、血尿が収まらず、一月前から病院通いをしていたチョビを部屋に置いて、自分の誕生日の夜、仕事に出かけた。
翌朝の帰宅から1時間ほどで目を覚ますことになったのは、・・・。
刻一刻と変わる東京の街並の中で、この分倍河原のあたりだけはちっともかわらない。そして、西府プールそのものもかわっていなかった。僕はプールを後にしてスローブを降り、その先へ足を伸ばしてみようと思った。その時、とある宗派のお寺を見つけた。プールの真下にある。日蓮宗のお寺だ。
僕はその瞬間すべてを理解した。彼の葬式を行った
世田谷区大蔵の動物霊園
は妙法寺というお寺。日蓮宗なのだ。死に片足をかけていた彼が僕に拾われた場所にも、僕に骨を埋めさせた場所にも、同じ「ほとけ」が立っていたのだ。
将来、「目に見えない事でも信じる」と人に言う機会があったなら、僕は迷わずこの日の事を思い出しているはずだ。それ以上の理由は必要ない。
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